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「ESG投資」って儲かるの? 専門家に聞く、資産運用のニューノーマル

Yahoo! JAPAN SDGs編集部

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新型コロナウイルスが猛威を振るい、世界経済のあり方を変えてしまった2020年。その影響は2022年現在も続いており、先が見えない社会に備えようと、お金の扱い方に変化が生じた人がたくさんいたようです。

株式会社マネーフォワードが実施した「コロナ禍の個人の家計実態調査2021」によると、生活防衛意識の高まりから、貯金を増やしたり、支出を減らしたりするなど、さまざまなアクションが見受けられました。

そのうちのひとつが、投資です。未来のために少しでも多くの貯蓄をしようと、NISAやiDeCoといった制度を活用して、資産運用に取り組む人が増えています。

世間の投資に対する意識が高まるなか、トレンドになっているのが「ESG投資」。

ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の頭文字をとった言葉で、ESG投資とは、環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資のことを言います。

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しかし、環境や社会に配慮することが、会社の利益に直結するのでしょうか。経済的なリターンを投資の目的とする場合、少しばかりの不安があります。

「ESGやSDGsって余裕のある人が考えるボランティアみたいなものなのでは......」

「ESG投資が儲かるなんて考えづらい」

そんな声も聞こえてきそうですが、いったい、どうすれば......。

そこで、Yahoo! JAPAN SDGs編集部は、ESGの専門家であり、プロの機関投資家にもアドバイスをされている金融コンサルタントの夫馬賢治さんにインタビューを実施。

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「どうしてESG投資がトレンドになっているのか」、「ESG投資は未来への備えになるのか」、先の見えない社会に備える投資の術を聞いてきました。

"利益"を追い求める投資のプロが「ESG投資」に本腰を入れる理由

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── 日本でも「SDGs」や「ESG」という言葉をよく耳にするようになりました。環境保護に積極的に取り組む企業に投資をする「ESG投資」も、少しずつ世間の関心を得ています。いったい、どのような背景があるのでしょうか。

日本では最近になってSDGsやESGといった話題が取り上げられるようになりましたが、そもそもアメリカやヨーロッパ諸国では、もう10年以上前から注目されていた考え方です。

経済成長が重視されていたところから、どうして急に環境保護の重要性が叫ばれるようになったのかというと、このままでは「未来がない」からです。

── 「未来がない」というのは、どういうことでしょうか......?

「世界経済が崩壊する」ということです。いきすぎた経済成長主義によって、格差が拡大していくことは自明ですし、気候変動によって地球が壊滅的な状況に陥るカウントダウンが、すでに始まっているんです。

環境保護に取り組む企業が増えなければ、地球はやがて崩壊します。その未来を考えれば、環境保護への意識がない企業に投資をするということは、地球壊滅のカウントダウンを早めていることになります。つまり、経済合理性に反するのです。

矛盾しているように感じるかもしれませんが、経済成長だけを重視すると、経済成長は止まります。その危機感から、世界の投資家たちによって「ESG投資」を推進する流れが生まれました。

── 最初に危機を提唱したのは、投資家だったんですね。

投資家は、人のお金を預かって投資を行い、経済的リターンを得る仕事です。だから、適当なことはできないわけです。個人の勘で投資をすることは許されないし、リターンよりも環境保護を優先することもできない。もしリターンを返せないのであれば、仕事を失ってしまいます。

そんな彼らが、「このままではいけない」と本気で言っています。「CSR」や「SDGs」と聞くと、お金に余裕のある企業がボランティアを行なっているような印象を抱く人がいるかもしれませんが、それは全くの誤解です。

経済合理性を求めるプロが、「ESGを意識しなければ、リターンを得ることはできない」と言っている。「地球のために」というのはその通りですが、単にいいことをしようとしているわけではないんです。

「コロナなんだからSDGsとかESGとか言ってられない」という勘違い

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── 日本にも、ESGを意識した経営を行っている企業はありますか?

日本では、メディアでSDGsやESGという言葉が紹介されるようになった2018年から、一部の大企業が本腰を入れるようになりました。私が知る限りだと、花王、ブリヂストン、丸井グループなどのアクションは、グローバル水準になってきていると言えます。

── 2018年から日本のESGは始まったんですね。

2018年は、"ESG元年"とも呼べる年になりました。正しい理解とまではいきませんでしたが、言葉が流布するようにはなったんです。しかし当時は、ESGは企業が利益の一部を社会に還元するというような「社会貢献」的な理解で広がっていました。この流れは、2020年の上期まで続いていました。

しかし、2020年の上期は、SDGsやESGへの注目度が一度下がっています。それは、新型コロナウイルスの影響でした。「こんな厳しい状況で、ESGなんて言ってられないよね」という諦観のようなものが、経営者にも、メディアにも生まれてしまいました。それまであったSDGs関連の連載企画も、パタリと止まってしまったんです。

── 再び盛り上がりを見せている背景には、どのような変化があったのでしょうか。

やはり、海外は違ったんです。「パンデミックも環境危機のひとつだ。このタイミングで、ESGに拍車をかけよう」と、機関投資家が動き出しました。投資先企業に対し、コロナ禍の経済ダメージを抑制するために人権保護を口にしはじめ、気候変動へのアクションも迫りましたし、経済メディアもコロナ禍が始まった直後からその動きを報じていました。

そのニュースが日本に伝わってきたのは6月ぐらいからです。そこで、日本の経営者たちは、自身の認識が間違っていたことに初めて気が付くわけです。「地球にいいことをすればいいんでしょ」という社会貢献的な認識から、経済構造が抜本的に転換してきていることがわかってきた。「本腰を入れなければ生き残れない」という危機感へと変化していきました。

こういった流れの中で、2020年は日本の真の"ESG元年"と呼べる年になりました。また10月に、当時の菅総理が2050年カーボンニュートラルを宣言したことで、一気に火が付きました。

最近では、上場企業は徐々にですが真剣さが増してきていますし、非上場企業であっても事の重大さを理解してアクションを始めているケースもあります。とはいえ、欧米諸国と比較すると、まだまだスピードが遅いのが現実です。

── 日本と世界のギャップは、どのようなところから生まれているのでしょうか。

最大の要因は、メディアにあると考えています。

そもそも日本は、ニュース番組で海外情報が報道されない"情報鎖国"です。海外のメディアは世界各国の情報を報道しますが、日本はそれをしないので「日本がよければ、それでよし」という雰囲気が国全体にあります。

それがよく表れているのが、自然災害の報道です。日本は、日本で起きた災害しか報道しないので、「今年は大変だったね」で終わってしまいます。

世界中で増えていく自然災害について知る機会がないので、気候変動の問題にもピンと来ていないんです。実際に僕自身も取材を受ける中で、報道記者から「気候変動ってこんなにも大変なんですか?」という感想をよく受けます。当然、国民がそれに気付くのはさらに遅くなります。

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画像:アフロ

食に関しても、日本で食べられているもののうち、63%は海外から輸入されたものです。つまり、私たちの食環境は海外に完全に依存しています。それにもかかわらず、海外が晒されている危機に目を向けられていない。

この状況は、「日本国内が安全なら、わたしたちの社会はずっと安全だ」という共同幻想を抱いて生きているともいえるでしょう。これが、今の日本なんです。

── たしかに、それほど深刻な問題として捉えていなかったかもしれません......。

2015年のものになりますが、World Wide View on Climate and Energyの調査(*1)によると「これから政府が気候変動対策を進めることが、良い方向に進むと思うか」という問いに対し、日本人の6割が「悪い方向に進む」と答えました。一方、グローバルの結果は違います。6割以上が「良い方向に進む」と答えました。

日本のメディアが「気候変動」という言葉を初めて使うようになってきたのは、2020年頃です。それまで話題に上がることもなく、異常気象があったとしても「温暖化」という表現を使っていました。

欧米諸国が「社会は破滅に向かっている」という認識を持ち始めた頃に、日本にそれと同等の危機意識を持っている大手メディアはひとつもありませんでした。

最近になって話題になっているとはいえ、アメリカの2010年頃と同等の盛り上がりだと思います。気候変動に対する危機意識は、残念ながら先進国の中ではダントツで低いんです。

「ESG投資で本当に儲かるの?」という議論はすでに終わっている

── 世界から後れを取ってはいるものの、少しずつ環境保護への意識は高まっていると思います。個々人でESG投資をすることは、環境保護への有効なアクションになり得るのでしょうか。

もちろんです。世界全体の資産のおよそ半分は、個人の資産です。つまり、「ESG投資をしてもムダだよね」とみんなが思ったら、最初から世界の半分のお金は動きません。「個人のアクションにかかっている」といっても、過言ではないと思います。

もちろん、残り半分の機関投資家の資産も重要ですが、すでにそちらの投資ではESG投資が活発化し、主流になってきている。それでもまだ投資が足りないのが現状です。

環境問題に限らず、健康の問題も、世界で深刻化する水不足の問題も、最後の頼みの綱は個人の資産です。個人の資産が動かない限りハッピーな未来はやってこないので、一人ひとりがESG投資に向き合うことには、すごく意味があります。

── みんなが動かないと、意味がないとも言えるわけですね。

おっしゃる通りです。みんなが動かないと、個人の資産運用をビジネスにする銀行や証券会社、運用会社が本気で動いてくれませんから。

たとえば、国民の半分が「ESG投資に興味がある」と言ったら、ESG投資関連の金融商品が積極的に販売されるようになりますよね。購入した商品でリターンが出たら、今度は買い増すようになり、それを買う人も増える。こうしたサイクルをつくっていかなければいけません。

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画像:アフロ

そうした意味で、サステナブルな社会を実現するためには、個人がカギを握っています。消費者がサステナブルな商品を選ぶようになれば、自然と企業はそれをつくりますから。

でも、今はそうなっていませんよね。企業も、投資家からせっつかれてサステナブルな商品に転換しようとしているのに、実際には消費者がそれを嫌うので、なかなかアクションを起こせずにいます。消費者が企業変革を妨げている。そして結果的に企業の事態への対応力、ひいては競争力を低下させてしまっている。

「レジ袋を有料にするなんて!」と思った人がいるかもしれませんが、その一声が、企業の事業転換にブレーキをかけているんです。企業は動き出そうとしているのですから、そこにブレーキをかけるのではなく、むしろ応援しないといけません。

── コロナ禍の影響もあり、資産運用に興味を持っている人が増えつつあります。株式や投資信託を購入するなら、ESGを意識したほうがいいと。

冒頭の話に戻りますが、失敗しない資産運用として、ESG投資は有効な手段です。現時点で、ESG投資は、一般的な投資手法よりリターンが高いことがデータで証明されていますから。心配になる人がいるかもしれませんが、「ESG投資で本当に儲かるの?」という議論はほぼ終わっているんです。

たしかに、以前はESG投資で高いリターンを出すことに懐疑的な意見もありました。ESG投資の歴史が約15年しかなく、分析に十分なデータが存在しないので検証がしづらいという事情もあったんです。しかし、今では、リターンが高いという分析が次々と出てきています。

また、特に気候変動関連ではイノベーションが加速し、実際に技術の大規模転換も始まるようになりました。その結果、従来型のテクノロジーやビジネスモデルが急速に競争力を失い、率先してイノベーションを成し遂げた企業が急成長を遂げています。この流れは確実に加速しています。そうなると、やはりESGに本気の会社は、売り上げも株価も上がりやすいんです。

若い世代のピュアな主観は、プロの感覚と似ている

── 投資の経験が少ない人が、株式や投資信託を購入する場合、どのような点に注意すればよいでしょうか?

大前提として、資産運用の基本は「長期保有」です。長く持てば持つほど、「投資で勝てる」というのは鉄則です。

その中でも特に、ESG投資は長期的な目線で運用を行う金融商品です。これから事業環境が大きく変わることを前提としているので、短期売買には向きません。短期売買は、手数料ばかり支払う、愚の骨頂ともいえる行為です(笑)。

じっと待っていると損をしているような気分になることもありますが、そこはぐっとこらえてください。投資は「動けば動くほど損をする」世界です。

── 金融商品の選び方も気になります。

一方で、ESG投資における銘柄選定は、投資の初心者が実践するにはハードルが非常に高いのも事実です。10年から15年という尺度で企業の変化を見極めなければならず、ここには専門的なスキルが要求されます。

ですから、あまり容易に個別銘柄に飛びつくことはオススメしません。銘柄選定は、数多くのデータソースを持つプロに任せたほうが安全と言えます。「投資信託は手数料が高い」と言われることもありますが、それを加味しても、個別株を購入するよりは収益性が高くなると思います。

それでも個別株を購入したいという人がいたら、特に若い人であれば直観を大切にして欲しいと思っています。若い人の直観は、変化すべき社会の方向性と合致している可能性が高いからです。

そもそも「投資でリターンを得るのは難しい」という前提で話すと、それは素人でもプロでも同じことがいえます。「ESG投資なんて儲からない」と考えているアナリストもまだいるくらいですから、今はまだ過渡期なんです。

そうした時期にあって、「オールド資本主義」にどっぷり浸かってきた古い世代の感覚に比べたら、若い世代の直観のほうが信頼できると僕は思っています。

── 最近、ミッションに「ビジネスの力で、気候変動を逆転させる。」と掲げるシューズブランド「Allbirds」がNASDAQに上場しました。従来のシューズブランドとはかけはなれていますが、時代に即した企業だと感じます。

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おっしゃる通りで、「Allbirds」は世界的に注目されている企業です。サステナブルな製造方法でシューズを生産していて、海外のミレニアル世代に絶大な支持を得ています。

しかし、もしかすると、馴染みのない年配世代の方は「そんな靴、誰が買うのか」と思うかもしれません。もしくは「サトウキビで靴をつくる会社が、儲かるわけない」と言うかもしれません。

でも、若いあなたはそう思わない。「値段がすごく高いわけでもないし、デザインも悪くない。最近、街中でよく見かけるようになってきた。そして、環境にもいいらしい」。

このように、若い世代のピュアな感覚は、ときに古い世代の専門家の意見よりはるかに信頼できる可能性があります。

若い世代の感覚は、ESG投資の専門家が見ている世界との親和性が高いんです。たとえ話ですが、今の就活生には「DXが遅れている企業には入社したくない」という考えを持っている人が多いと思います。親世代が「いい会社だよ」と言っていても、時代に乗り遅れていたら不安になりますよね。その感覚はすごく的確だと思います。

それと同じように、ESGの観点で「なんだか時代に合っていないな」と感じる企業は、仮に古い世代の専門家が「いい会社だ」と言っていても、株式を購入することはお勧めできません。

もし個別株を購入するのであれば、ぜひ自分自身のフィルターも大切にしてください。

── 自分自身のフィルターを通すというのは、投資信託にも言えることですか?

投資信託は個別株を集約したポートフォリオですから、究極的には同じことが言えます。しかし、自分で無数の企業から分散ポートフォリオを組むのはやはり大変です。投資信託を購入するのであれば、信頼できるファンドを選ぶのが定石です。

── 「信頼できるファンド」を見つけるのは、初心者には難しい気がします......。

注視すべきは、やはり実績です。ESG投資ファンドでこれまでに高いリターンを出しているのか、投資する企業の選定方法が明確か、そして信頼性の高いデータに則っているか。これを見れば、自ずと選択肢が絞られてきます。

特にESGの良し悪しをどう評価しているのかは、重要な判断材料です。企業向けの簡単なアンケート調査などでESGを評価しているとしたら、それは危険だと思ってください。そんなファンドは最近は随分と少なくなりましたが、以前はかなりありました。そういうファンドは迷いなく「消し」の選択肢です。

── ちなみに、夫馬さんがオススメしているファンドや投資信託を教えていただくことはできますか......?

ごめんなさい、法規制があって不用意にファンドを推奨することはできないんです。でも、安定して大きなリターンを出している有名な機関投資家なら知っています。「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」です。

「日本の年金基金」と聞くと、反射的に「儲かってなさそう」と言う人がいるのですが、GPIFはかなりのリターンを出しているファンドです。メディアがリターンが下がったときだけ報道し、大きくリターンを出したときにはほとんど報道しないので、変な印象がついてしまってますね。

投資初心者で、「何を買ったらいいのか分からない」という人は、まずはGPIFが採用しているESG投資ポートフォリオのコピーファンドを買ってみるのがいいかもしれませんね。ちなみにGPIFが採用しているESG投資ポートフォリオは、グローバル基準であり、海外の機関投資家も多数採用しているタイプのものです。

「ESG投資」という言葉がなくなる日

── ESG投資についての理解が深まっただけではなく、投資の基本も知ることができて、すごく勉強になりました。これから投資を始める人に向けて、夫馬さんから伝えたいことはありますか?

機関投資家や、投資を生業にするプロほど、ESG投資に注目しています。E(Environment)とS(Social)とG(Governance)の観点なくして、リターンを得るのは難しいと知っているからです。

今後はESG投資が主流になるはずです。そのうち、「ESG投資」という言葉もなくなると思います。それが当たり前になりますから。

こうした状況において、ESG投資に関連しない商品を買うということは、プロが「儲からなさそうだね」と言っているものを買うのと同じことです。時代遅れの選択肢だともいえます。

── 「環境のために買うもの」ではなくなっていくんですね。

もちろん環境のためにもなりますが、大前提として、みなさんがリターンを得るための選択肢です。

投資家たちが「ESG投資だ!」と言い始めているということは、それほど地球が壊滅的な状況に向かっていることの証左であり、投資のメインストリームがESGにあるということです。

僕らもそろそろ、真剣に考えないと取り返しがつかないフェーズにまできています。

コロナ禍の影響を受け、資産運用について真剣に考えている人が増えていますから、このタイミングで環境問題についても意識を向けてもらえたらうれしいです。

\ さっそくアクションしよう /

ひとりでも多くの人に、地球環境や持続可能性について知ってもらうことが、豊かな未来をつくることにつながります。

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